没骨法(もっこつほう)とは|輪郭線を引かずに描く技法と、鉤勒法との違い
没骨法(もっこつほう)とは、輪郭線を引かず、水墨や彩色を面として広げて形をつくる東洋画の技法です。読み方、鉤勒法との違い、中国から日本への歴史、水墨画での使われ方を、辞典の説明と実演動画で解説します。
没骨法(もっこつほう)とは、輪郭線を引かず、水墨や彩色を面として広げて形をつくる東洋画の技法です。対になるのは、線で輪郭をくくる鉤勒法(こうろくほう)です。
水墨画の描き方の記事や、美術館の作品解説でよく見かける言葉ですが、水墨画だけの技法ではありません。この記事では、辞典の説明をもとに、没骨法の意味と読み方、鉤勒法との違い、中国から日本への歴史、水墨画での使われ方を整理します。
この記事で分かること。
- 没骨法の意味と読み方、「骨」が指すもの
- 鉤勒法との違い
- 中国の花鳥画から、日本の水墨画・日本画までの歩み
- 水墨画で没骨法がどう使われるか(実演動画つき)
没骨法とは|輪郭線を引かずに形をつくる東洋画の技法
ひとことで言うと
没骨法は、形のまわりを線でなぞらず、墨や色を面として置いて形そのものをつくる描き方です。日本大百科全書(ニッポニカ)は、東洋画の描き方の一つで、輪郭線を引かずに水墨や彩色を面として広げて形をつくる、と説明しています。
精選版 日本国語大辞典は、輪郭線を描かず、水墨や彩色の隈取(くまどり)を主にして描く方法とし、花鳥画に多く、軽く淡く清らかなところが特色だとしています。
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(作例:小林東雲先生のかぶ。かぶの描き方の実演動画で描かれた作品)
読み方と「骨」の意味
読みは「もっこつほう」です。「没骨」は「ぼっこつ」とも読まれ、精選版 日本国語大辞典には「没線(ぼっせん)描法」という別の呼び方も載っています。
「骨」は、対象の輪郭をくくる筆の線のことです(世界大百科事典)。その線を用いずに描くのが「没骨」です。英語では boneless(骨のない)と訳されます(JAANUS)。
鉤勒法との違い|線でくくるか、面でつくるか
鉤勒法(こうろくほう)とは
鉤勒は、形の輪郭を筆の線でくくることです。輪郭の内側を彩色することが多く、その描き方を鉤勒塡彩(こうろくてんさい)と呼びます(世界大百科事典「鉤勒」)。精選版 日本国語大辞典は、鉤勒を没骨と並ぶ絵画の二大技法の一つとしています。
没骨法と鉤勒法を比べる
| 没骨法 | 鉤勒法 | |
|---|---|---|
| 輪郭線 | 引かない | 筆の線でくくる |
| 形のつくり方 | 水墨や彩色を面として広げる | 線でくくり、内側を彩色する(鉤勒塡彩) |
| 近い絵画 | 濃淡で対象をとらえる水墨画 | 線で描く白描画 |
| 花鳥画での様式 | 徐氏体(じょしたい) | 黄氏体(こうしたい) |
世界大百科事典は、鉤勒は没骨より先に生まれて白描画に近く、没骨は濃淡のグラデーションで対象をとらえる水墨画に近い、と説明しています。
没骨法の歴史|中国の花鳥画から日本の水墨画・日本画へ
中国:花鳥画の二大様式と、清の惲寿平
日本大百科全書によると、没骨法は唐代中期から見られ、宋代に確立して、山水・花鳥・人物画に使われました。花鳥画では、北宋初期の徐崇嗣(じょすうし)の系統である徐氏体の特徴が没骨、黄筌(こうせん)の系統である黄氏体の特徴が鉤勒とされます。
ただし、没骨を始めた人物については、辞典によって説明が異なります。五代の徐熙(じょき)が始めて孫の徐崇嗣が完成させたとするもの、徐崇嗣が始めたと伝わるとするもの、さらに古い時代に作品があったと伝わるとするものがあり、一人に決めることはできません。
清の時代には、惲寿平(うんじゅへい、号は南田)が没骨で写生した花卉(かき)画で名をなし、その花鳥画は清代の典型になりました(世界大百科事典「惲寿平」)。
日本:室町の水墨から近代の日本画まで
日本では、室町時代の相阿弥(そうあみ)の山水に、没骨的な描き方が見られるとされます(百科事典マイペディア)。
江戸時代については、日本大百科全書が、広い意味では宗達・光琳の琳派の画法や、円山・四条派の付立法(つけたてほう)も没骨法の一種だとしています。
近代では、横山大観と菱田春草が1900年ごろから始めた描き方が「朦朧体(もうろうたい)」とからかわれました。美術館の作品解説は、これを没骨描法と説明しています(文化遺産オンライン)。一方、精選版 日本国語大辞典は朦朧体を「没線描法」と説明しており、呼び方には揺れがあります。
水墨画の没骨法|墨の面と濃淡で描く
墨で描く没骨の作例
水墨画では、没骨法は墨の面と濃淡で形をつくる描き方になります。武蔵野美術大学の造形ファイルは、水墨画の没骨画法について、輪郭線を描かずに面で形を表し、筆の性質を生かして濃・淡・潤・渇・遅・速などを表現すると説明しています。
作例として、東京国立博物館の明時代の「墨菜図軸」は、輪郭をとらない没骨法で野菜の葉を描いていると解説されています(文化遺産オンライン)。野菜を描いた作品である点は、この記事の後半で紹介するかぶの実演とも重なります。
また、京都国立博物館が所蔵する元時代の「蓮池白鷺図」(重要文化財)は、没骨を主にした、水墨の潤いのある作品と解説されています(文化遺産オンライン)。
なお、JAANUS によると、没骨は輪郭線のない墨の表現にも普通に使われる言葉ですが、彩色画に限って使うべきだという専門家もいます。
付立て(つけたて)と付立筆
没骨法と近い技法に、付立て(つけたて)があります。デジタル大辞泉は、円山派・四条派に多い日本画の技法で、輪郭を使わず、濃淡2種の墨か絵具を含ませた筆で一気に描き、陰影や立体感を出すものと説明しています。精選版 日本国語大辞典は、筆を寝かせて筆の腹で描き、一筆の中に濃淡を出すとしています。
付立てを没骨の一種とみるかどうかは、典拠によって分かれます。日本大百科全書は広い意味で没骨法の一種とし、世界大百科事典の「日本画」の項は、没骨法と付立法を別の項目として並べています。
道具では、付立筆(つけたてふで)が没骨筆(もっこつふで)とも呼ばれます(武蔵野美術大学 造形ファイル)。
実演で見る|かぶを墨の面で描く(小林東雲先生)
動画で見るポイント
以下は、小林東雲先生(こばやし とううん)がかぶを墨で描く実演です。国際墨友会のチャンネルで公開されています。
見るときは、次の2点に注目してみてください。
- 葉を、筆の腹を使った幅広い面で置いていく様子。先端に濃い墨が残ります
- 白い根を、片側に入れた淡墨の弧と紙の白で表している様子
葉脈や茎、根の首には細い線も入っています。線で輪郭を囲むのではなく、面と濃淡で形をつくるところに、没骨の考え方を見ることができます。
描き方の手順は「かぶの描き方」へ
実際に筆を動かしてみたい方は、かぶの描き方で、墨の濃淡と余白を使う手順を紹介しています。墨の濃淡そのものの練習には、水墨画の運筆 練習方法も参考になります。
よくある質問(FAQ)
没骨法の読み方は?
「もっこつほう」と読みます。「没骨」は「ぼっこつ」とも読まれ、没線(ぼっせん)描法という別の呼び方もあります。
没骨法と鉤勒法の違いは?
没骨法は、輪郭線を引かず、水墨や彩色を面として広げて形をつくる技法です。鉤勒法は、輪郭を筆の線でくくり、内側を彩色する技法です。二つは絵画の二大技法とされます。
没骨法は誰が始めたのですか?
辞典によって説明が異なります。花鳥画では、北宋の徐崇嗣と、その系統の徐氏体に結びつけて語られます。一方で、五代の徐熙が始めたとする説明や、より古い時代に作品があったと伝わるとする説明もあります。
没骨法は水墨画だけの技法ですか?
水墨画だけの技法ではありません。東洋画の技法で、水墨・彩色の両方に使われます。もとは彩色が中心の手法だったとする辞典もあります。
付立てと没骨法の違いは?
付立ては、輪郭を使わず、濃淡の墨や絵具を含ませた筆で一気に描く技法です。広い意味では没骨法の一種とされる一方で、別の技法として並べる辞典もあります。
初心者が没骨法を試すには?
線で形を囲まずに、筆の面と墨の濃淡で形をつくる練習から始めるとよいでしょう。かぶの描き方の記事で、実演動画と一緒に手順を紹介しています。
まとめ
- 没骨法(もっこつほう)は、輪郭線を引かず、水墨や彩色を面として広げて形をつくる東洋画の技法
- 対になるのは、線で輪郭をくくる鉤勒法。花鳥画では、没骨が徐氏体、鉤勒が黄氏体の特徴とされる
- 起源や始めた人物は、辞典によって説明が異なる
- 日本では、室町の水墨から、琳派・円山四条派(広い意味で)、近代の日本画まで語られてきた
- 水墨画では、墨の面と濃淡で形をつくる
墨絵アーティスト・カリグラファー 西洋カリグラフィーと墨絵を融合させた独自のスタイルを確立し、文字と線、余白が響き合う作品を制作しています。この東西の技法の融合により、文化の境界を越えた新しいアートの可能性を探究しています。 現在は国際墨友会理事として活動し、Art Beyond Boundariesでは審査員特別賞「三田村有純賞」を受賞しました。伝統を大切にしながら、現代に生きる墨絵の表現を世界に向けて発信し続けています。