実演:神雲(Jinun)/墨絵アーティスト・カリグラファー 西洋カリグラフィーと墨絵を融合させた独自のスタイルを確立し、文字と線、余白が響き合う作品を制作。東西の技法の融合により文化の境界を越えた新しいアートの可能性を探究している。現在は国際墨友会理事として活動し、Art Beyond Boundariesでは審査員特別賞「三田村有純賞」を受賞。伝統を大切にしながら、現代に生きる墨絵の表現を世界に向けて発信し続けている。
本記事は神雲(Jinun)が実際に筆を持って描きながら解説する、体験的な竹の描き方ガイドです。手の動きごと見せる実演動画と本文を並べてお読みください。
水墨画で竹を描くときは、まず幹(節を含む)を立ち上げ、次に葉を払い、最後に細い枝を通す——この「幹 → 葉 → 枝」の順に一筆ずつ積み上げ、三点構成で全体を整えます。
この記事では、初めて竹を描く方に向けて、各パーツの運筆の要点と構図のルールをステップごとに解説します。対応する実演動画と合わせてご覧いただくことで、「手がどう動くのか」を視覚的に確認しながら学べます。竹は四君子(梅・蘭・竹・菊)の一角であり、水墨画の基礎運筆が凝縮されたモチーフです。ここで身につけた技法は他のモチーフにも活きてきます。
この記事は、以下の実演動画と対応しています。動画を再生しながら本文の各セクションを読むと、「どの場面でどの技法を使っているか」がひと目でわかります。
各セクションに動画タイムスタンプを記載していますので、見たい場面に飛びながらご活用ください。
竹の幹は、節と節のあいだを「一区切り一筆」で立ち上げていきます。一筆ずつ止めて離す——この積み重ねが節の間隔と「間(ま)」を生み出します。
動画タイムスタンプ:幹の運筆シーン → 0:01〜
幹を描くには中墨〜やや濃い中墨(墨の濃淡でいう中程度から濃いめの墨)が基準です。筆に含む水分が多すぎると節がにじんでぼやけるため、硯の縁で余分な水をしごいてから描き始めましょう。
① 筆を硯で整え、穂先に中墨をたっぷり含ませる。
② 硯の端で軽くしごき、水分過多を取り除く。
③ 和紙の端で墨量を確認してから本番の紙に向かう。
① 筆をやや寝かせた角度(45〜60度程度)で紙に置く。根元(幹の下部)から始める。
② 筆を一気に上へ向かって引き上げる。途中で止めたり迷ったりしない。
③ 節の直前で筆をゆっくり止め、紙から一度きちんと離す。
④ 少し間を置いて次の区切りへ筆を置き、同様に上へ引き上げる。
節と節のあいだは「ひとつの呼吸」でまとめるつもりで進めると、自然な間隔が生まれます。
節は幹の「つなぎ目」であり、別の短い横払いで表現します。
① 幹の一区切りを描き終え、筆を紙から離す。
② 節の位置に横方向の短い払いを1〜2回入れる(強く押しつけず、筆圧は軽め)。
③ 次の区切りを描き始める前に、必ず一呼吸置く。
よくある間違い:幹を描いている途中に節を入れようとすると、墨がにじみすぎて節の輪郭が消えてしまいます。必ず「幹の一区切りを完成させてから節」の順で進めてください。
**内脈(ないみゃく)とは、葉の輪郭と葉脈を別々に描かず、一筆の運筆の中に葉脈の線まで含めて同時に表現する技法です。**穂先が紙の上を走るときの筆圧と角度の変化が、自然に「葉の中心線」を生み出します。別の筆や別の工程を加えず、一気呵成に仕上げることで、水墨画らしい生き生きとした勢いが葉に宿ります。
動画タイムスタンプ:内脈の葉払いシーン → 0:21〜
① 筆を穂先だけが紙に触れる立て気味の角度(70〜80度程度)に持つ。
② 葉の根元(付け根)に穂先を置き、斜め45度方向へ一気に払い出す。
③ 払いの終端に向かって自然に筆圧を抜き、穂先を紙から浮かせる。
④ 払い終わりで筆が「スッ」と離れると、葉先に自然な細さが生まれる。
焦らず、一払い一払いを独立させることが大切です。
葉の向きをすべて同じ方向に揃えず、微妙にばらつかせると風を受けて揺れているような自然な表情になります。
動画タイムスタンプ:枝の運筆シーン → 0:52〜
竹の「枝(えだ)」は、幹から派生して葉房をつなぐ細い線です。幹(メインの太い縦の線)とは別のパーツであることを意識してください。
① 枝は必ず節の付近から分岐する。節と節のあいだから急に出てくることはほとんどない。
② 角度は幹に対して概ね30〜60度。水平に近すぎると重さが出すぎる。
③ 左右交互に分岐させると自然なリズムになる(左→右→左…の交互が基本)。
細枝には濃墨または中墨を少量だけ含ませ、筆を立てて穂先の細い部分だけを使います。
① 筆の墨をやや少なめにし、筆を立てて穂先で引く。
② 引く速度を上げると自然に**かすれ(飛白)**が出て、枝に乾燥した質感・時間の経過が表れる。
③ 一本の枝を描いたら、墨を含め直さず続けて次の枝を引くと統一感が出る。
かすれ(飛白)とは、乾いた筆が紙の上を走るときに生まれる擦れのことで、水墨画に独特のリズムと息遣いを与えます。
枝の先端付近に葉を集めるように配置すると、「枝が葉を支えている」自然な構造になります。枝の根元付近に葉を多く置くと重心が崩れやすいので注意しましょう。
動画タイムスタンプ:三点構成による構図の流れ → 動画全体を通じての配置の流れ(全編)
三点構成とは、メインとなる「長(主)」・それを支える「中(副)」・アクセントとなる「短(添)」の3つの要素を配置することで、画面に奥行き・リズム・バランスを生み出す水墨画の基本構図法です。
竹の場合、以下のように当てはめます:
| 役割 | 竹の要素の例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 長(主) | もっとも背の高い幹・葉の群れ | 画面の中心的存在。視線を最初に引きつける |
| 中(副) | 中程度の高さの幹・葉房 | 「長」を引き立て、全体に安定感を与える |
| 短(添) | 低い幹・少数の葉・細い枝 | リズムと余白のコントロール役 |
3つの要素が一直線に並ばないよう、前後左右に微妙にずらすことで自然な空間が生まれます。
水墨画において余白(描かない空間)は「何もない場所」ではなく、空気・光・静けさを表現する積極的な構成要素です。
描く前に「どこを余白にするか」を先に決めてから筆を置くと、三点構成が自然に整います。
竹の描き方を整理すると、次の流れになります:
一筆一筆を大切に積み上げる姿勢が、竹の「節」と「間(ま)」の美しさを引き出します。
竹の技法を土台に、ぜひ四君子(梅・蘭・竹・菊)の他のモチーフにも挑戦してみてください。水墨画を体系的に学びたい方は[初心者のための始め方ガイド](INTERNAL:水墨画 初心者 始め方ガイド)もあわせてご覧ください。
竹は「幹(節を含む)→ 葉 → 枝」の順で描くことをお勧めしています。まず節を含む幹を一筆ずつ丁寧に立ち上げ、次に内脈の技法で葉を払い、最後に幹と葉をつなぐ細い枝を通します。三点構成(長・中・短)は描き始める前に構図として頭に描いておき、全体を整えながら進めます。一筆一筆を大切に積み上げることが、竹らしい節の美しさを生み出します。
厳密な規則はありませんが、奇数枚を意識し、「風の方向」を統一するように払うと自然な印象になります。内脈(葉の中心線)を意識することで、複数の葉が同じ方向を向く一貫性が生まれます。また、三点構成の「長・中・短」に合わせて葉の密度を変えると画面に奥行きが出ます。「こうでなければならない」という唯一の正解はなく、自然な竹の姿を観察しながら自分なりの表現を見つけることが水墨画の楽しみでもあります。
はい、三点構成は竹に限らず、水墨画の幅広いモチーフに応用できる基本構図法です。四君子の梅・蘭・菊はもちろん、花鳥画・山水画・人物画など様々な場面で活用できます。竹でこの構成を身につけておくと、他のモチーフへの転用がぐっとスムーズになります。
竹の幹を描くには、中鋒の中筆(馬毛系・やや硬め)が扱いやすく、筆を寝かせたときの墨の広がりが幹の太さに自然につながります。葉の払いには穂先が利く細筆が向いており、斜め45度の一気払いがしやすくなります。枝は細筆や中筆の穂先だけを使います。筆の選び方・おすすめについては水墨画の筆 選び方ガイドで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
にじみの原因のほとんどは水分過多です。まず筆に含ませる水分量を減らすところから始めましょう。具体的な対処法は以下のとおりです:
① 硯の縁で筆を軽くしごき、余分な水分を取り除く。
② 幹を描くときは筆を寝かせて運筆し、一区切りを一気に引き上げる。
③ 節を打つ前に必ず筆を紙から離す。幹の途中で節を入れようとするとにじみやすい。
④ 一筆一筆のあいだに少し間を置き、焦らず進める。
なお、幹の太い縦の線と、幹から分岐して葉房につながる「細い枝」は別のパーツです。枝はより少ない墨量・立てた筆で描くことで、にじみを防ぎつつかすれを活かした表現ができます。