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Article — 水墨画

竹と燕の描き方|植物に生き物を足して学ぶ花鳥画の入り口【動画連動】

水墨画で燕を描く手順を、小林東雲先生の実演動画と並べて解説。輪郭を描かず少ない筆数で形を取り、翼は一筆で引ききる。竹のどこに置くか、竹と燕のどちらを濃くするか——花鳥画のはじめの一歩をたどります。

2026.09.05
小林東雲先生による水墨画。竹のあいだの余白に燕が描かれている
小林東雲先生による水墨画。竹のあいだの余白に燕が描かれている

花鳥画は、いきなり難しいことを始めるジャンルではありません。植物だけを描いていた画面に、生き物を一つ足す。それだけで始められます。

そして生き物を描くときのコツは、意外にも「描き込まないこと」です。燕を鳥らしく見せるのは、羽の一枚一枚ではありません。少ない筆数で形を取り、翼の一筆に速度を出す。それだけで、飛んでいるように見えてきます。

この記事で分かること。

  • 燕を輪郭なしで、筆の形をそのまま使って描く方法
  • 翼を一筆で引ききって速さを出すこと
  • 竹のどこに燕を置くと、絵が動いて見えるか
  • 竹と燕、どちらを濃く描いて主役にするか

竹そのものの描き方は竹の描き方で扱っています。この記事は、そこに生き物を足す段階に絞ります。

この記事の使い方|動画と本文を並べて学ぶ

8分35秒の実演で全体の流れをつかむ

以下の動画は、小林東雲先生(こばやし とううん)が竹と燕を描く実演です。国際墨友会のチャンネルで公開されています。

8分35秒と長めなので、まず通しで一度ご覧ください。そのうえで、本文の各工程を読みながら該当する部分を見返す、という使い方ができます。

見るときは、次の点に注目してみてください。

  • 竹と燕で、墨の濃さがどう違うか
  • 燕を画面のどのあたりに置いているか
  • 筆を動かす速さが、竹のときと燕のときでどう変わるか

本文で工程ごとの要点を確認する

以下では、燕 → 取り合わせ → 濃さの配分、の順に要点をまとめます。

筆の速度や圧力そのものに不安がある場合は、水墨画の練習方法で基礎のドリルを扱っています。道具については道具ガイドをご覧ください。紙は和紙を使います。

花鳥画とは|植物に生き物を一つ足すこと

花鳥画は水墨画の主要ジャンルのひとつ

花鳥画(かちょうが)は、花や植物と、鳥などの生き物を組み合わせて描く画題です。中国で成立し、日本に伝わって描き継がれてきました。

水墨画には大きな柱がいくつかあり、風景を描く山水画と、この花鳥画は並び立つ存在です。四君子のような植物単体の画題を描いてきた人にとって、花鳥画は自然な次の一歩になります。

生き物が一つ入ると画面に時間が生まれる

竹だけを描いた絵は、静かに立っています。そこに燕を一羽入れると、画面に動きが生まれます。

理由は単純で、鳥は次の瞬間そこにいないからです。見る人は無意識に「今まさに通り過ぎるところだ」と受け取ります。植物は留まり、生き物は過ぎていく。その差が、一枚の中に時間の流れを作ります。

生き物を足すというのは、動きを足すことだと考えてください。

燕を描く|少ない筆数で速さを出す

輪郭を描かず筆の形をそのまま使う

燕の体は、輪郭を引いてから中を塗るのではありません。筆の腹を紙に当て、その形をそのまま体にします。

筆を寝かせて置き、すっと引いて離す。これで胴の形ができます。丸く整える必要はありません。整えようとして筆を重ねるほど、形は潰れて黒い塊になっていきます。

初心者の燕が鳥に見えないとき、原因はほとんどこれです。描き足りないのではなく、描きすぎています。

翼は一筆で引ききる

翼は、燕らしさがいちばん出る場所です。

胴から外へ向けて、細く鋭い線を一筆で引きます。途中で止めず、速度を落とさず、先を細く抜く。この抜けが速さになります。ゆっくり丁寧に引くと、翼は翼に見えず、ただの棒になります。

燕の翼は先が尖って後ろへ反っています。まっすぐ引くのではなく、わずかに弧を描かせると燕らしくなります。

目と嘴は最後に小さく

体と翼ができたら、最後に目と嘴を入れます。

どちらも、ごく小さく。濃い墨で点を打つ程度で十分です。ここを大きく描くと、途端に鳥が幼く、あるいは重く見えます。

目は入れなくても成立します。迷ったら、入れないほうを選んでください。

竹と燕の取り合わせ|どこに置くと絵が動くか

燕は竹の間の余白に置く

置く場所は、竹に重ならないところです。

竹の線の上に燕を重ねると、竹の形も燕の形も読みにくくなります。竹と竹のあいだ、何も描いていない余白に置いてください。そこに置くと、燕が空間の中を飛んでいるように見えます。

向きは画面の中へ向ける

燕をどちらに向けるかで、見る人の視線が変わります。

画面の外を向いていると、視線は絵の外へ出ていきます。内側へ向けると、視線が絵の中に留まります。迷ったら、画面の中心のほうへ向けてください。

一羽か二羽にとどめる

数は増やさないほうがまとまります。一羽で十分ですし、二羽なら関係が生まれます。

二羽描くときは、大きさと向きを変えてください。同じ大きさで並べると、模様のように見えてしまいます。三羽以上になると、竹との関係より鳥同士の関係が主になり、何を描いた絵か分かりにくくなります。

墨の濃さで主役を決める|竹と燕のどちらを立てるか

主役を濃く、脇役を淡く

竹と燕、どちらを見せたいかを先に決めてください。

燕を主役にするなら、燕を濃い墨で描き、竹は淡くします。竹を主役にするなら逆です。この差があるだけで、画面に順序が生まれます。

両方を濃く描かない

いちばんよくないのは、竹も燕も同じくらい濃く描くことです。

どちらも主張して、目の行き場がなくなります。描いている最中は両方とも丁寧に仕上げたくなりますが、片方は引くと決めてください。引いたほうが、もう片方が立ちます。

なお花鳥画は、もともと中国で育まれ、日本に伝わって描き継がれてきた画題です。植物と生き物を組み合わせるという形式そのものに、長い蓄積があります。

まとめ:竹→燕→配置の全体フロー

工程を一望すると、次のようになります。

  1. 竹:先に竹を立てて画面の骨格を作る。描き方は竹の描き方
  2. 燕:筆の腹の形をそのまま体にする。翼は一筆で速く引き抜く。目と嘴は最後に小さく
  3. 配置:竹の間の余白に置き、向きは画面の中へ。一羽か二羽まで
  4. 濃さ:主役を濃く、脇役を淡く。両方を濃く描かない

一枚描き終えたら、少し離れて眺めてみてください。燕が空間の中にいるように見えるか。竹に貼りついて見えるなら、置く場所か濃さのどちらかを見直す番です。

別のジャンルに進むなら、山水画の描き方が近い場所にあります。植物単体の画題は四君子とはに、生き物を扱った別の記事は金魚はなぜ日本美術で描かれてきたのかにまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q. 燕が鳥に見えず、ただの黒い塊になります。

筆数が多すぎて形が潰れています。輪郭を引いてから中を塗るのではなく、筆の腹を紙に当てて、その形をそのまま体にしてください。丸く整えようとして筆を重ねるほど黒い塊に近づきます。あわせて、翼を一筆で引ききること。途中で止めたり塗り足したりすると速さが消えます。筆の速度と圧力の扱いは水墨画の練習方法で扱っています。

Q. 燕は何羽描けばよいですか。

決まった数はありません。一羽で十分に成立します。二羽にすると鳥同士の関係が生まれますが、その場合は大きさと向きを変えてください。同じ大きさで並ぶと模様のように見えます。三羽以上になると、竹との関係より鳥同士の関係が主になり、何を描いた絵なのかが曖昧になります。

Q. 燕をどこに置けばよいか分かりません。

竹と竹のあいだ、何も描いていない余白に置いてください。竹の線に重ねると、竹の形も燕の形も読みにくくなります。向きは画面の外ではなく中へ向けます。外を向いていると見る人の視線が絵の外へ出ていき、内へ向けると絵の中に留まります。

Q. 竹と燕、どちらを濃く描きますか。

主役にしたいほうを濃くします。燕を見せたいなら燕を濃く、竹を淡く。竹を見せたいなら逆です。避けたいのは両方を同じくらい濃く描くことで、どちらも主張して目の行き場がなくなります。片方は引くと決めてください。

Q. 花鳥画とはどういうジャンルですか。

花や植物と、鳥などの生き物を組み合わせて描く画題です。中国で成立し、日本に伝わって描き継がれてきました。風景を描く山水画と並ぶ、水墨画の主要なジャンルのひとつです。植物単体の画題を描いてきた人にとっては、生き物を一つ足すところから無理なく入れます。

Jin(神雲)
Jin(神雲)
水墨画家 / Sumi-e Artist

墨絵アーティスト・カリグラファー 西洋カリグラフィーと墨絵を融合させた独自のスタイルを確立し、文字と線、余白が響き合う作品を制作しています。この東西の技法の融合により、文化の境界を越えた新しいアートの可能性を探究しています。 現在は国際墨友会理事として活動し、Art Beyond Boundariesでは審査員特別賞「三田村有純賞」を受賞しました。伝統を大切にしながら、現代に生きる墨絵の表現を世界に向けて発信し続けています。‍