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Article — 水墨画

秋の水墨画の画題|栗と小鳥、桔梗を墨で描く見どころ【動画連動】

秋の水墨画の画題として、栗と小鳥、桔梗を紹介します。栗(毬栗)と桔梗はどちらも秋の季語で、桔梗は秋の七草の一つ。実演ショート2本の見どころと、松村景文《栗に小禽図》・俵屋宗達《兎桔梗図》もあわせて解説します。

2026.09.21
墨で描いた栗と小鳥。栗の枝にとまった小鳥が上を向き、下にはとげのある毬に包まれた実、上には細長い葉が描かれている
墨で描いた栗と小鳥。栗の枝にとまった小鳥が上を向き、下にはとげのある毬に包まれた実、上には細長い葉が描かれている

栗(毬栗、いがぐり)と桔梗(ききょう)は、どちらも秋の季語です。桔梗は秋の七草の一つでもあります。秋の水墨画の画題を探しているなら、この二つは季節がはっきり伝わる題材です。

この記事では、国際墨友会のチャンネルで2026年9月に公開された実演ショート2本と、江戸時代の画家の作品を手がかりに、栗と小鳥、桔梗を秋の画題として紹介します。

この記事で分かること。

  • 栗と桔梗が秋の画題になる理由(季語と秋の七草)
  • 実演ショート2本の見どころ(動画の説明文にある制作メモ)
  • 松村景文《栗に小禽図》と俵屋宗達《兎桔梗図》
  • ほかの秋の画題(秋草・野菜や果物・菊)

秋の水墨画の画題|栗と桔梗を墨で描く

秋の画題には、栗のような実りの題材と、桔梗のような秋の野の草花(秋草)があります。

どちらも、墨の濃淡と筆の運びがよく見える題材です。栗は、淡墨(薄い墨)で置いた実と、とげのある毬(いが)の線の対比。桔梗は、一枚ずつ払う花びらと、一息で引く茎の線の対比。実演動画では、その違いが短い時間の中にまとまっています。

栗と小鳥|毬の線と、淡墨・濃墨で置く実

栗は秋の季語

栗の実は秋の季語で、栗の花は夏の季語です(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「栗」)。とげのある外皮に包まれた実は毬栗(いがぐり)と呼ばれ、これも秋の季語です(コトバンク「毬栗」)。毬は、栗などの実を包む、とげのある外皮のことです。

毬は熟すと裂けて、実が落ちます。この現象を「栗が笑む」と言います(日本大百科全書「クリ」)。

栗は、古くから歌に詠まれてきた木の実でもあります。万葉集では、山上憶良が子を思う長歌に「瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ」と詠んでいます(万葉百科 巻5-802)。さらにさかのぼると、青森市の三内丸山遺跡からはクリやクルミなどの木の実が多く出土しており(文化庁「ぶんかる」)、遺伝子や花粉の分析から、クリが栽培されていた可能性が高いとされています(文化遺産オンライン「三内丸山遺跡」)。

実演の見どころ

国際墨友会のチャンネルで公開されている「栗と小鳥の描き方」は、和紙に栗の枝と小鳥を墨だけで描く29秒のショートです。彩色はしていません。動画の説明文によると、小鳥の一筆目から体、葉、栗の実、イガ、枝の順に運んで仕上げています。

説明文にある制作メモは次の4つです。

  • 小鳥は、頭を一筆で置いてから、胸へ筆を下ろして体を作る
  • 葉は、鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)を穂先(筆の先)の割れで出し、筆を寝かせて面を作る
  • 栗は、先に淡墨で実の塊を置き、乾かないうちに濃墨を差す
  • イガは、実の外側へ放射状に打ち込み、外周ほど乾いた筆先を残す

短い動画なので、見るところを二つに絞ると追いやすくなります。一つは、淡墨で置いた実に、乾かないうちに濃墨(濃い墨)が差されるところ。もう一つは、毬の外側ほど乾いた筆先の線が残るところです。淡墨と濃墨の使い分けや、かすれの出し方は、水墨画の練習方法(かすれ・にじみ・濃淡の基礎5ステップ)で基本から練習できます。

名品に見る:松村景文《栗に小禽図》

栗と小鳥の取り合わせは、江戸時代の絵にも見られます。その一つが、京都国立博物館が所蔵する松村景文(1779〜1843)の《栗に小禽図》(くりにしょうきんず)です。景文は花鳥画にすぐれ、四条派の発展に貢献した画家です(コトバンク「松村景文」)。

松村景文《栗に小禽図》。斜めにのびる栗の枝に小鳥がとまり、とげのある毬に包まれた実と細長い葉が描かれている

(図:松村景文《栗に小禽図》江戸時代・19世紀 紙本淡彩 京都国立博物館蔵/出典:ColBase

斜めにのびる枝に小鳥がとまり、とげのある毬に包まれた実と、細長い葉が描かれています。画面の中ほどでは、裂けた毬から実がのぞいています。先に紹介した「栗が笑む」姿です。

この絵は紙本淡彩、つまり紙に墨で描き、淡く色を添えた作品です。墨だけで描いた実演とは技法が違いますが、毬のとげを実のまわりに放射状に引いているところは、実演の制作メモと見比べられます。

植物と鳥を描く花鳥画

栗と小鳥のように、花の咲く草木に鳥を配した絵を花鳥画と呼びます。東洋画の画題の一つで、花だけの絵や、虫や獣を描いた絵も含みます(コトバンク「花鳥画」)。京都国立博物館の館蔵品データベースも、《栗に小禽図》を花鳥画に分類しています(京都国立博物館 館蔵品データベース)。

花鳥画を描いてみたい方には、竹に燕を添えて描く竹と燕の描き方を入り口としておすすめします。

桔梗|五弁の花と、一息で引く茎

秋の七草の桔梗

桔梗は秋の季語で、秋の七草の一つです(コトバンク「桔梗」)。秋の七草は、萩・尾花(すすき)・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗の7つです(コトバンク「秋の七草」)。

七草は、万葉集にある山上憶良の2首に由来します(万葉百科 巻8-1537巻8-1538)。

秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花(巻8-1537)

萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花(巻8-1538)

2首目の「朝顔の花」が何の花かは説が分かれますが、桔梗とする説が有力です(精選版 日本国語大辞典・日本大百科全書「秋の七草」)。

実演の見どころ

同じく国際墨友会のチャンネルで公開されている「桔梗の描き方」は、色紙(しきし)に桔梗を墨で描く29秒のショートです。動画の説明文によると、一筆目の花から茎を引き、葉とつぼみを添えて穂を重ね、最後に金を一点差して仕上げています。

説明文にある制作メモは次の3つです。

  • 花は、五弁を一枚ずつ、穂先を利かせて外へ払う
  • 茎は、一息で下へ引き、途中で墨を継がずに細らせる
  • 最後に、花芯へ金を一点だけ差して締める

見どころは、花びらと茎で筆の使い方が変わるところです。花びらは一枚ずつ穂先で外へ払い、茎は途中で墨を継がずに一息で下へ引いて細らせています。最後の金は、花芯(花の中心)に一点だけです。

名品に見る:俵屋宗達《兎桔梗図》

桔梗は、墨だけの絵にも描かれてきました。東京国立博物館が所蔵する俵屋宗達の《兎桔梗図》(うさぎききょうず、江戸時代・17世紀)は、紙に墨で描いた作品(紙本墨画)です。桔梗を墨の影絵のように表し、まわりを淡い墨で包むことで、兎を白く浮かび上がらせています。月そのものは描かれていませんが、見上げる兎の視線の先に月があることを感じさせる、と東京国立博物館は解説しています(ColBase)。

野生の桔梗は準絶滅危惧

野生の桔梗は、北海道から九州・奄美群島までの山野の草地に生えます。環境省のレッドリストでは、2025年3月に公表された第5次で準絶滅危惧(NT)とされています。第4次(2020年版)では絶滅危惧II類(VU)でした。分布域の一部で採りすぎの圧力があることが、判定の理由に挙げられています(環境省 いきものログ「キキョウ」)。

ほかの秋の画題|秋草・果物・菊

秋草は、秋に花の咲く草の総称で、葛・すすき・桔梗・女郎花などがあります(コトバンク「秋草」)。世界大百科事典の「花鳥画」の項目は、日本の花鳥画の主題が、松竹梅から桜と秋草へ移っていったと説明しています(コトバンク「花鳥画」)。

野菜や果物も画題になります。伊藤若冲の《果蔬涅槃図》では、大根の釈迦のまわりに野菜や果物が集まり、その中に栗も描かれていると指摘されています(伊藤若冲《果蔬涅槃図》の解説)。

菊は、梅・蘭・竹とともに四君子の一つに数えられる画題です。四君子それぞれの意味は四君子とはで紹介しています。

よくある質問(FAQ)

秋の水墨画ではどんな画題が描かれますか?

この記事で紹介した栗と小鳥、桔梗のほか、秋草(秋に花の咲く草の総称)、四君子の一つの菊、野菜や果物なども画題になります。ここに挙げたのは一例です。

栗は何の季語ですか?

栗の実は秋の季語、栗の花は夏の季語です。とげのある毬(いが)に包まれた実は毬栗(いがぐり)と呼ばれ、これも秋の季語です。

桔梗は秋の七草ですか?

はい。秋の七草は、萩・尾花(すすき)・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗です。万葉集の山上憶良の歌に由来し、歌に詠まれた「朝顔の花」を桔梗とする説が有力です(ほかの説もあります)。

栗と小鳥のように、植物と鳥を一緒に描く絵を何と呼びますか?

花鳥画と呼びます。東洋画で、花の咲く草木に鳥を配した画題です。京都国立博物館は、松村景文の《栗に小禽図》を花鳥画に分類しています。

実演動画では、栗と小鳥をどんな順で描いていますか?

動画の説明文によると、小鳥の一筆目から体、葉、栗の実、イガ、枝の順に運んで仕上げています。墨だけで描き、彩色はしていません。

桔梗の実演で最後に入れる金は何のためですか?

動画の説明文には、最後に花芯へ金を一点だけ差して締める、とあります。墨で描いた花の仕上げに、花の中心へ一点だけ金を入れています。

まとめ

  • 栗(毬栗)と桔梗は、どちらも秋の季語です。桔梗は秋の七草の一つです。
  • 栗と小鳥の実演は、淡墨で置いた実に乾かないうちに濃墨を差すところと、毬の外周に残る乾いた筆先が見どころです。
  • 桔梗の実演は、五弁を一枚ずつ外へ払う花と、墨を継がずに一息で引く茎が見どころです。
  • 江戸時代には、松村景文が《栗に小禽図》(紙本淡彩)を、俵屋宗達が《兎桔梗図》(紙本墨画)を描いています。

秋の画題を一つ選んで、まずは動画の筆の運びを見てみてください。

Jin(神雲)
Jin(神雲)
水墨画家 / Sumi-e Artist

墨絵アーティスト・カリグラファー 西洋カリグラフィーと墨絵を融合させた独自のスタイルを確立し、文字と線、余白が響き合う作品を制作しています。この東西の技法の融合により、文化の境界を越えた新しいアートの可能性を探究しています。 現在は国際墨友会理事として活動し、Art Beyond Boundariesでは審査員特別賞「三田村有純賞」を受賞しました。伝統を大切にしながら、現代に生きる墨絵の表現を世界に向けて発信し続けています。‍